ニュースの概要

鹿児島県は公式ホームページで、県内の温泉について可燃性天然ガスの確認に関する情報を公表した。温泉には、メタンなど燃えるガスが湯に溶け込んで地上へ出てくるものがある。そのため温泉法は、温泉を掘る事業者や、くみ上げて使う事業者に、ガス濃度の確認と安全対策を求めている。今回の発表も、この制度にもとづく県の取り組みの一つと考えられる。なお、個々の温泉地や施設ごとの詳しい数値は、県が示す公表資料で確認する必要がある。本稿では発表の細部ではなく、この種の確認がなぜ必要なのか、施設側は何を備えるべきかを考える。

引用元: 温泉における可燃性天然ガスの確認について(鹿児島県公式ホームページ)

分析・見解

渋谷の事故が変えた、温泉ガスへの見方

2007年6月、東京・渋谷の温泉施設で爆発が起き、従業員3人が亡くなった。地下の湯から分かれたメタン主体のガスが建物内にたまり、何らかの火花で着火したとされる。それまで温泉の危険といえば、硫化水素や二酸化炭素による中毒が中心だった。燃えるガスは盲点だったのである。

事故後に温泉法が改正され、ガス濃度の確認と、危険がある場合の防止措置が制度に組み込まれた。今回の鹿児島県の公表も、この流れの延長にあると読める。

火山の県で燃えるガスが問われる理由

鹿児島といえば桜島や霧島など、火山の印象が強い。温泉ガスも硫化水素や二酸化炭素が主役と考えがちだ。しかし、古い海底の堆積物に由来する温泉では、メタンが湯に溶けていることが多い。千葉県や関東平野の一部で、掘削時にメタンを含む湯が出ることがあるのと同じ仕組みである。

県内でも地質は一様ではない。火山性の温泉と、そうでない温泉が混在する。しかも火山性の温泉には別の危険がある。硫化水素は空気より重く、くぼ地や地下室にたまる。つまり県内の施設は、燃えるガスと有毒なガスの両方を意識する必要がある。火山の近くだから大丈夫、ガス田ではないから安心、という思い込みを、測定で確かめる作業に意味がある。

数値より、ガスがたまる場所が事故を分ける

メタンは空気中に約5%以上あると火がつく。この下限を爆発下限界(=燃え広がる最低の濃度)と呼ぶ。空気より軽く、天井付近や行き止まりに集まりやすい。

浴室は換気されていても、危ないのは地下の源泉ポンプ室、配管ピット、貯湯タンクの上部といった人目につかない空間である。源泉の濃度が低くても、湯を大きなタンクにためて空気にふれさせると、ガスが分かれて局所的に濃くなる。確認結果は、いわば入口の数字にすぎない。施設の中でどこに濃縮するかは、設計と運用で決まる。基準以下なら安全と読むのではなく、基準以下でもたまる構造がないかを見る。この視点が、数字だけを見る読み方との大きな違いだ。

一度の測定で終わらせない継続監視へ

源泉の成分は固定ではない。くみ上げ量の増加、掘り増し、地震や周辺の掘削で、ガスの量が変わることがある。枯渇対策で自噴から動力くみ上げに切り替える温泉地が増えれば、湯と一緒に出るガスの量も変わりうる。

今後は定期的な再測定、安価な検知器の常設、記録の保管が標準になっていくだろう。実務では、測定を年に一度の行事にせず、月次点検の項目に入れるのが現実的だ。県が結果を公開することは、事業者だけでなく、地域全体で危険を共有する土台にもなる。

ビジネスへの影響

小規模旅館でも今週できる三つの点検

まず、源泉ポンプ室、貯湯タンク、配管室の換気口がふさがれていないかを、目で見て確かめる。次に、携帯式のガス検知器で、天井付近と床付近の両方を測る。検知器は数万円台からあり、レンタルを扱う業者もある。三つ目は、換気扇や照明、コンセントなど電気設備の状態の確認である。古い施設では、火花が出やすい機器が地下室に残っていることがある。改修の際は、防爆(=火花が出ても引火しにくい)仕様への交換を優先順位の上位に置きたい。

記録と教育が、万一のときの説明責任を左右する

点検は、やった事実が残らなければ評価されない。日付、測定場所、数値、担当者を簡単な様式で残す。委託業者に任せている場合も、報告書を必ず受け取り、保管する。

従業員への教育も欠かせない。地下の狭い場所に一人で入らない、換気扇が止まったら作業を中止する、といった単純な約束事が命を守る。保健所や県への相談窓口も、あらかじめ連絡先を掲示しておくとよい。

投資や買収では、止まるリスクを数字にする

検知器や換気の改善にかかる費用は、数万円から数十万円の範囲に収まることが多い。一方、事故や行政の指摘で営業を止めた場合の損失は、売上だけでなく、予約の取り消しや評判の低下にまで及ぶ。

宿泊施設の買収や融資の審査では、源泉の権利とあわせて、ガスの確認結果と点検記録を求める場面が増えるだろう。事前調査(デューデリジェンス)の項目に加えておけば、買った後の想定外の出費を減らせる。

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